身辺雑記

【コラム】深夜の誘惑2- 今はなき、東池袋大勝軒を想う

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東池袋の街並みが変わりゆく中で、今でも悔やまれるのは、あの大勝軒の佇まいだ。人々の胃袋と心を満たし続けた名店があった場所は、今では別の建物に姿を変えている。

東池袋の住宅街にぽつんと立つ店の前には、開店前から長蛇の列が形成されるのが日常の風景だった。 学生、主婦、観光客と、様々な人々が、その味を求めて遠方からも訪れていた。 行列に並ぶ、その時間すら大勝軒体験の一部として楽しんでいたように見えました。

店内に入ると、まずは目に飛び込んでくるのは、壁に飾られた額縁だった。開店当時の店舗の様子。ラーメンの写真。 それらは全て、丁寧に額装され、大勝軒の歴史を静かに物語っていた。

私が初めてこの店を訪れたのは2002年のことだった。近くの大学に通っていた学生時代、キャンパスからほど近いこの店の評判を聞いて足を運んだのが始まりだ。働きはじめた頃は、フリーターであったのを良いことに、平日の昼下がり、雑司ケ谷図書館での読書を終えた帰り道に立ち寄るのが習慣となっていた。

カウンター席に座って、目の前で繰り広げられる調理の光景が圧巻だった。寸胴から立ち上がる湯気。秘伝の配合で作られるそのつけだれは、他店ではひたすら真似できない深い愛情と複雑な旨味を持っていた。

春から秋にかけての晴れた日には、店の外に並べられた「テラス席」も格別の人気を誇った。 プラスチック製の簡素な椅子とテーブルにはあったが、そこで食べるつけ麺には特別な味わいがあった。街に行く人々を眺めながら、時には心地よい風を感じながら、熱々のつけ麺をすすることは、何とも言えない贅沢な時間だった。

つけ麺は、今では当たり前のようにどこでも食べられるメニューとなったが、大勝軒のつけ麺には独特の個性があった。しっかりとした歯ごたえがある。茹で加減も絶妙で、つけだれとの相性を考えられていることがわかる。

そしてなんなんとも、あのつけだれの味わい。 濃厚でありながら一時的にくどくならない。 醤油と魚介のうま味が完璧なバランスで調和し、そこに秘伝の調味料が置かれていて、他では味わえない深い味わいを行っていた。 麺を浸すたびに、その味わいが口の中いっぱいに広がり、箸が止まらなくなる。

系列店は複数あれど、本店の味は別格だった。 それは味覚の違いだけではない。 店主の山岸氏が長年見て上げた職人技と、受け継がれてきた伝統、そして、この地でしかない独特の雰囲気が、本店ならではの魅力だ。

常連客の中には、週に何度も通っている人もいなかった。 私も、図書館帰りの寄り道が続いていた時期がある。

2007年3月20日の閉店は、多くのファンに衝撃を与えた。最後の営業日には、普段以上に長い蛇の列ができ、中には涙ぐむ常連客の姿も見られた。 10年以上経った今でも、「あの味が恋しい」という声を聞く。

大勝軒が切り開いたつけ麺文化は、現在日本の食文化として確固たる地位を確立している。 全国各地で、様々な店がそれぞれの解釈でつけ麺を提供している。あの味は、特別なものだった。

今は跡形もない店舗。 しかし、店主が作った味と、そこで過ごした時間は、確かな記憶として多くの人の心に刻まれている。 大勝軒という伝説は、日本のラーメン史に永遠にそして私たちは、その黄金期立会を達成した幸運を、誇りに思うのである。

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